ほとんど毎日、書店をのぞかないではいられない。だから、いつも平積みされた新着本には、興味がある。
ベストセラーは、無視できない。おめあての作家の新作は、いまかいまかと待ち望んでいる。
でも出版されて数十年、文庫化されて版を重ねて、いまだ読者を魅了するそんな本こそ見逃せない。
仕事や義務や義理ではなくて、ただ「何か読みたくなった」とき、心に引っ掛かった一冊を紹介します。
※次回の連載100回で次回連載分をためていただくべく?!お休みとなります。
最終回となる100回をお楽しみに!

[連載エッセイ No.99]

プロフィール
連城三紀彦「戻り川心中」

光文社文庫 2006年1月 第1刷(講談社文庫 1983年) 単行本 講談社 1980年

   表題作の「戻り川心中」ほか、「藤の香」「桔梗の宿」「桐の棺」「白蓮の寺」全5編の短編小説集。いずれの小説も花が物語の重要なモチーフになっていて、不可解な殺人や心中事件がミステリー調に語られる。これら「花葬シリーズ」と呼ばれる小説の舞台はいずれも明治、大正から昭和初期という設定で、静謐で仄暗い中に豊かな叙情性を感じさせる。

   なかでも「戻り川心中」は文中にいくつかの短歌を織り込んだ、耽美的な文章が印象的だ。
   大正期の歌人苑田岳葉は、妻がいながら苑田を慕う女学生桂木文緒と心中未遂事件を起こし、その恋愛を詠んだ歌集「桂川情歌」で名声を得るが、その翌年再び心中事件を起こす。相手はカフェの女給で女は死亡、苑田はまたも一命を取りとめるが、三日後自害する。 さらに偶然によるものかこの心中事件と同日夜に、桂木文緒も自宅で自殺した。苑田がその三日間に詠んだ短歌五十六首は死後発表され、「菖蒲歌集」として話題を呼んだ。
   苑田が女給と死んだ本当の理由とはなんだったのか、苑田の遺した歌を手がかりとして、その全貌が明らかにされる。

   ――――   世の中は 生きつつ戻りつ 戻り川 水の流れに 抗ふあたはず
   ――――   明日はまた 涸れむ命の つかのまの 朝陽にむすび 蘇る花

   連城三紀彦は本作で1981年第34回日本推理作家協会賞、1984年には「恋文」で第91回直木賞を受賞しているが、1978年第3回幻影城新人賞を受賞した「変調二人羽織」(光文社文庫)も小生お気に入りの一作だ。

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