ほとんど毎日、書店をのぞかないではいられない。だから、いつも平積みされた新着本には、興味がある。
ベストセラーは、無視できない。おめあての作家の新作は、いまかいまかと待ち望んでいる。
でも出版されて数十年、文庫化されて版を重ねて、いまだ読者を魅了するそんな本こそ見逃せない。
仕事や義務や義理ではなくて、ただ「何か読みたくなった」とき、心に引っ掛かった一冊を紹介します。
※記念すべき100回を迎え、充電(?!)していただくため、しばしお休みとなります。

[連載エッセイ No.100]

プロフィール
梶山季之「せどり男爵数奇譚」

ちくま文庫 2000年6月第1刷(河出文庫 1983年) 単行本 桃源社 1974年7月

   「せどり」とは古書店業界の用語で「掘り出し物を探しては転売して利ざやをかせぐこと」。本書は「せどり男爵」と呼ばれる古書店主人が出会った事件の数々を、物書きである「私」が聞きだすミステリータッチの連作小説だ。

   ある時、せどり男爵は、永井荷風の初期の傑作「ふらんす物語」の自家装丁本を手に入れる。古書マニア垂涎の代物だが、表紙の裏に貼られた蔵書票をはがすと書き込まれた文章が見つかった。さらに同じ「ふらんす物語」が2冊存在することがわかり追跡が始まる。そしてそれぞれの表紙の裏には文字。謎の行方は、3冊そろってはじめて明らかにされる。
   また戦後間もない頃、せどり男爵は、数千冊の洋書を格安で手に入れた。その中にシェークスピアの初版本やら希少本が含まれていた。当時でもン万ドルする逸品で、それを家に押し入ってまで手に入れようとする進駐軍の夫人との虚々実々の駆け引きが始まった。
   そのほか、せどり男爵が50年守り通してきた童貞をさる未亡人にささげて手に入れた和本の話とか、信長、秀吉の時代に来日した宣教師が始めて洋式印刷で刊行したキリスト教の宗教読本をめぐって放火、盗み、殺人まで犯すビブリオマニア=書物狂の話など、まさに奇々怪々な物語だ。

   読んでいて先ごろ芥川賞作家となった西村賢太を思い出した。受賞作の「苦役列車」をはじめ、文庫本として刊行されている「小銭をかぞえる」「どうで死ぬ身の一踊り」「二度はゆけぬ町の地図」「暗渠の宿」は言ってみればいずれも同一主題なのだが、どれを読んでも面白い。即ち、主人公の男の自分のダメさ加減と、女性への暴力的とも思える渇欲と、昭和のはじめに逝った藤澤清造という名もなき作家への偏愛ぶりだ。藤澤の単行本や掲載雑誌はもちろん、評論や書評、藤澤にまつわるものなら新聞の囲み記事でもなんでも収集する。それらの古本や資料は丁寧に保管しており、永年探し続けていたある本はガラス入りの額装にしたという徹底ぶりだ。

   新刊は気になるが、永年にわたって刊行されている本こそ目を向けたい。古本でしか会えない世界も数多い。「何か読みたくなって」はそんな思いで今回100回。
東日本大震災では多くの書店、コンビニなどが被害にあった。製紙メーカー、インクメーカーなど製作関連会社にも甚大な影響を受けた。出版を含めて、今までの産業、社会のあり方、今後の展望を問われている。小生は変わらず本を読み続けていきますが、ひとまず休載させていただきます。ありがとうございました。

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